この本が出版されたのが昭和45(1970)年だが、更にそれから44年が経過したいまも(平成26年)なお、講堂は「そのまま五反田に建っている」。講堂のなかは以前、機会があって見せてもらったことがある。メイン・ホール外側には階段を設けておらず、2・3階へはスロープで上るようになっているのが特徴的だ。メイン・ホールのなかには、1,200を越える座席が並び、レーモンドも書いている三角トラス──これは星の形を象っているらしい──が高い天井いっぱいに拡がっている。植物の描かれたステンドグラスからの採光も明るく気持ちがよかった。
この講堂の向かって右側には、薬用植物園が設けられている。ここも以前にゆっくりと見せてもらったことがあるが、実験用に各種植物が植えられていて、普段はあまり見かけることのない草花と出会うことのできる都心でも貴重な場所だ。
入口付近にある守衛室まで戻って、歴史資料館のカードキーをお借りする。電話で伺ったところによると、守衛室に申し出れば歴史資料館を見せていただけるとのことだったからだ。歴史資料館は守衛室向かいの医薬品化学研究所の一階にあった。カードキーをかざしてなかに入り、守衛室でいわれた通り照明スイッチを入れてから奥の部屋に入る。あるある、星一ゆかりの品々がずらりと並んでいる。写真でよく星一がそれを着た姿を見かける制服の実物をはじめ、天使がたいまつを掲げた杉浦非水の星製薬ポスター、星や彼と親しかった後藤新平の揮毫、薬のパッケージの数々、星一の著作等々、暫しそれらに魅入ってしまった。最後に、二十数分ほどある星の生涯を描いた映像を他に誰もいない室内で、一人くつろぎながら見せていただき、歴史資料館をあとにした。
水蔭の足跡をめぐる趣向が、いつの間にやら星一の足跡をめぐる旅に変わってしまった感もあるが、まあ星も水蔭に負けず劣らず興味深い人物なのでお許し願いたい。本日はここまで。明日は別方向に水蔭の足跡を辿ってみることにしよう。